KERA・MAP#004

ヤング・マーブル・ジャイアンツ

2005/6/25〜7/3 吉祥寺シアター

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ

出演(50音順):天野史朗、荒木秀行、荒巻信紀、井澤正人、いせゆみこ、市川訓睦、伊藤修子、猪岐英人、今井あかね、井本洋平、岩崎正寛、植木夏十、岡田昌也、緒川桐子、金崎敬江、眼鏡太郎、小林由梨、木根隆介、小宮山実花、近藤智行、主浜はるみ、鈴木里実、鈴木菜穂子、関絵里子、永田杏奈、音室亜冊弓、野部友視、初音映莉子、林雄一郎、三嶋義信、皆戸麻衣、宮本彩香、宗清万里子、横塚進之介、吉田真琴

<主要な役>消崎由香=宗清万里子、消崎健太郎=野部友視、教師=猪岐英人、清田=岩崎正寛、修一(入院中の少年)=天野史朗

<メモ>・KERA・MAP連続公演の第2弾として上演。オーディションによる選抜公演は過去に「青十字」のアナザーバージョンや、演ぶクラスの発表会などがあるが、フルキャストオーディションは過去初。総勢35名の出演。うちナイロンのメンバーは植木夏十、眼鏡太郎、皆戸麻衣の3人。それを除くとほぼ無名のキャスティングばかり(市川訓睦と伊藤修子はナイロビの所属、横塚進之介はサードステージの所属だが、彼らは所属劇団でも若手の扱い)。
・吉祥寺シアターオープニングステージの第2弾としてのイベント。実際はそんなに広い敷地の劇場ではないが、舞台の奥行きが広く取ってあり、また2階席もあってかなり天井が高いため。広い劇場という印象を受ける。
・タイプとしてはコメディーに属するだろうが、あまり爆笑の連続ではなく、それなりにシリアスな背景を持った人物も多数登場する。健康公演へのステップと取れる、ライトコメディー。断続的にナンセンスな部分はあるものの、むしろ没個性を逆手に取った大群像劇という感。
・上演時間は2時間45分。平均的な時間ではあるが、休憩なしということを鑑みると「消失」と同じ程度の尺。
・前方部分は大きな平台、奧に3段の階段を付けてサブステージ、その奧にスクリーン。上下ともに2階へ上がる階段あり。2階の上下、ステージ最奧手前の上下、スクリーン部分、平台の上下、客席横の上下など、出ハケする場所が多数。セリも多用されている。純粋な考え方をすれば、大人数を展開させるのに有機的な装置を造ったという印象。色調は全体的に黒が占めるが、センター一番奥と2階上下、下手階段部分のバックはアスファルト状になっている。基本的に抽象セットで、小道具でシーン転換している。
・35人というキャスティングはケラ作品史上最高となった。これまで「ビフテキと暴走」の33人が長らく最多数であったが、それを抜いた。
・フルキャストオーディションは第2次まであった模様。1次は書類審査、2次は実技を伴う審査。第2次審査は参加料5,000円で、倍率は約30倍(1次は無料参加)。シリーウォークがどれだけ儲かったかは各自計算してみよう。
・#002「青十字」のパンフレットで「2年後ぐらいに若手をオーディションして公演を打つかも知れない」との言葉がそのまま具体化する形に。
・大まかなシーン構成は、由香と健太郎の会話、レストラン、由香の会社、学校、病院。これらのフラグメントが絡み合う形でストーリーが進む。ただ、ラストは近作のケラ作品に見られた「収斂型」ではなく、グチャグチャになって崩壊する「爆発型」とも言える形になっている。
・消崎の読み方は「ケシザキ」。「消崎由香」の役名は「砂の上の植物群」の役名を完全に踏襲。名字は異なるが健太郎も同じ。これからのケラ作品の登場人物名の大きなレパートリーの一つになるのではないか。
・エチュードとゲームから作られ、台本のあがりはやはり遅かった模様。だがプロット自体はかなり始めの方から作り込まれていたようで、(一応)全てのキャストの役がパンフレットに載っている。大人数の芝居においてケラ作品がこのようなプロットを持つのはかなり異例。
・タイトルから想起されるのは「若さ」が大部分を占める。学校のシーンや、若さに嫉妬する看護師(女性)がその象徴として登場する。
・オープニング映像はなし。映像の利用もいつものように字幕ではなく、地図や街の風景など。一番最初に使われるのは由香が左目をえぐる回想シーン(かなりの長台詞)で、台詞と映像のリンクは見事というほかない。スクリーンは紗幕としても利用され、バックで別の芝居が進行していることも。
・上記の由香と健太郎は、一応このクレジットになっているが、最終的には誰が本当の二人なのか分からないような演出になっている。3グループが同時に会話をしているシーンもあり、終盤ではほぼ全員が由香と健太郎になる。由香は左目のアイパッチ、健太郎は青のチェックのシャツで判断できる。若手ということでアイデンティティが消えたことによる、ケラ作品には珍しいタイプの芝居となった。この二人の対話がバラバラに交わされるのは、全て時間が異なっている。また、清田やキンギョ、フナワといった由香の会社の社員も複数の人間が演じる。
・ダンスのシーンは2箇所。一番最初、客電が付いた状態から音楽が入り、全員でダンス。中盤でタンゴを踊るシーン。雑踏の中でダンスめいたことを紗幕の後ろで行っていることも。振付が長田奈麻でないということもあり、異色の踊りに見える。(振付は金崎敬江。赤魔女/喪服の女として出演していた)
・最もナンセンスだと思われるパートはキンギョとフナワ。この辺りを体当たりで演じているのは植木、眼、皆戸といったナイロンの面々。ある程度の信頼が確立されているからか、脇を固める重要な役を3人に振っている。
・キャバクラで女性が半裸になったり、スキャンティーがいたり、また終盤近くでは全裸になる役が複数いることなど、ケラ作品では滅多に見れないシーンもある。おそらくここまでの出鱈目を行ったのは健康初期以来だろう。
・劇中歌われる「♪どこまでも行こう 道はきびしくとも」は、小林亜星作曲のCMソング。服部克久の「記念樹」と著作権侵犯をめぐって最高裁まで争われたいわくつきの曲でもある。
・ラストシーンは舞台奧のアスファルトが開いて全員が外へ出て行くという、極めてアングラ的な終末の演出。同時多発的な会話や客席からの走り出しなども80年代の小劇場的であり、一種のオマージュだと考えられる。

<ちらしより>下に並んだ30名を越える出演者クレジットを見て、ほとんど、あるいはまったく知る名前がないことで、この公演のチケットの購入をためらう方は多いことと思う。そして、「今回はやめておこう」と言って有名な人の出るあの舞台やあの舞台のチケットにお金を注ぎ込むのも、まあ無理からぬことだ。この際「テレビに出てるあの人や大きな舞台のスターであるあの人を生で見るためだけに」芝居を観ている方はこの先は読まないで結構です。きっとそうした方々は、この作品がどんなに面白いモノだったとしても「観ておけば良かった!」と悔しがってはくれないと思うからだ。
つまり、逆に言うなら、そうではない方々にとって、この公演を、見逃した際には必ずしや大きな後悔を伴う舞台にしてやりたい、というしごくまっとうな志を、今私は抱いているのだ。
皆さんが評判を聞いて悔しがる様が目に浮かぶようである。評判を聞いてから来られるのもなんかちょっとシャクなので、この公演に限り当日券はやや高めの値段に設定させて頂いた。「早く買っておけばよかった!」と後悔させたいのだ。なにしろ前売券の1.5倍である。この値段に呆れて当日券で来るのをやめた方も、やはり「1.5倍払っても観ておけばよかった!」と後悔することになれば万々歳。たまにはそんな公演もあってよいと思う。
かなり意地の悪いことを言っているのは承知である。しかしそれも仕方のないことなのだ。フル・キャスト・オーディションという意地の悪い企画で始まったこの公演は、最後まで意地の悪さを貫く冷酷さをもってして、初めて筋の通るものになるのだから。
ケラリーノ・サンドロヴィッチ

シリーウォーク

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